ムカつくんだよっ!

・郵便受けに、なぜか一通だけ封書が残っていた。昨日取り損ねた分だろう。封筒には思いっきり6月までの勤め先のロゴ(笑)が入ってたから、イヤな予感がして郵便受けにほったらかしたのかも知れない。

・だが、差出人は「ハゲ」だった。「ハゲ」と気安く呼んでいるが、あの会社の中では上から50番目くらいに偉い。なんせ社員数は連結子会社含めたらなんぼかわからんくらいおるような会社なので、まぁぶっちゃけ、めっちゃ偉い人なのであるが、俺はそんな委細を構う人間ではないので平気で「アホなこと言うなハゲ!」「言われたくなったら仕事せぇバカ(=私)!」などと軽口をたたき合いながら、部や事業部の「手に負えない」ような難関事業を二人三脚でこなしてきた。本人には死んでも言わないが「唯一頼れる上司」だったのだ。

・そのハゲが手紙を寄越した。イヤな予感しかしなかったが、開けてみたところしっかり縦書きの便箋にきったない手書き文字で、ここ5,6年の二人での思い出を綴り、そのついでに俺のことを散々罵り(笑)「ったく腹立つわあのハゲほんまに……」と思いながら便箋3枚にも渡る長文を、ハゲはきったない手書き文字で書いてくれたのだ。

・そのハゲの手紙は、3行ほど便箋の行を空けて。こんなことを書いていた。


  「もう一度、お前と仕事がしたかったよ」


 その文字は、他の文字以上に、若干震えていた。

……ムカつくんだよっ! ハゲのくせによ、何を俺に今更泣き落としかけてんだばーかばーか! お前何か早く出世して取締役にでもなっちまえよ!! ムカつく、ほんっとムカつくっ!! それが嫌ならさっさと独立しちまえよ! 薄給冷遇でも行ってやるからよっ!