そうでもないんじゃないか?

 ずいぶんと前から気にしているみたいだけど、もう大丈夫だよ。ご心配なく。

 むしろ俺としては、君のお母様のことのほうが心配なんだけどね。ほら、去年縁側で滑って庭石に尾てい骨を打ち据えたって言ってたじゃないか。あれ以来、お母さんずいぶんと痛い痛いと気にしていたんだよね。俺が病院に行くように言っても聞いてはくれないだろうから、君からしっかり言って貰えないだろうか?

 ……まさか。俺にそんな目的なんてないよ。君のお母様は俺にとってももう一人の母なんだから。

 うちの母さんかい? あれは何を言ってもダメだ。医者嫌いもあそこまでいけば大した物だと思うよ。だから最期まで医者の面倒にならずに往生してくれとしか言えないね。ぎっくり腰、またやったらしいけどそれでも病院にいかないんだ。見上げた根性だとは感心するけれど、正直息子としては、あんまり心配かけてくれるな、と言いたいところではあるのだがね。

 そう言えば母さんに。「お前は子供の頃からずっと病院に行ってる」と言われたことが有ってね。

 小児喘息だったんだ。突然発作が起きるとね、母さんがいい加減重たいだろう俺を背負って、小児科に駆けこんで。喘息のことはずいぶんとデリケートだったよ。性格も有るんだろうけれど、ホコリやカビの類の一切無い住環境を作ることに腐心していたね。掃除はそもそも好きみたいだけど、俺は残念ながら似なかった。むしろ父さんのほうに似たかも知れないね。

 ……ああ、抗うつ剤かい? 大丈夫、さっき飲んだよ。

 朝・昼・晩のローテーションじゃなくなって、だいぶ服薬コンプライアンスも正常になってきたね。三環系は後遺症が辛いけれど、対処療法でどうにかなるものはこっちで抑えていくさ。そしてそのうちまた、効き目の穏やかなSSRIにでも戻ってくれればいい。ああ、でも俺は正直SSRIには戻りたくないかも知れない。薬価が違いすぎるからね。

 ……え? もうほとんど治ってるって?

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